2023年2月10日 水と電気の話(3)

生活

 

サザンカの日課は、朝3時半に目覚ましがなる、床の上で足を伸ばしたり、指を動かしたりして4時に起床。ところが、このところ一抹の不安が横切る目覚め、となってしまっている。

サザンカ:ちょっと聞いて、聞いて、、。いちにちのスタートは、爽やかに始めたいのに、、、

不安な気分で起きるの。水が出るかなあ、、、と真っ先に蛇口をひねる。蛇口は、うんともすんとも言わず押し黙っている。徹夜で蛇口を見張っていたけれど、朝まで出てこない。結局24時間水が出てないことになる。記録つけてたの。なんと6日間続いてる、、、。

昨日、イロームが井戸のある家に水もらいに行ったけど、近所の人たちが水汲みに押しかけて、その井戸は空っぽになっていた。うちから歩いて15分くらいの中央マーケットのあたりは、少しは出るそう。なので、ある家に水買いに行ったら、もう水を売らないと断られた。

 

今日は水があるかって起きるけれど、期待外れ。バケツのため水でシャワー浴びるだけ。あせもだらけよ。これなんとかならないの?お隣の村長さんに相談するとか? それとも副知事のところに行くとか、、、村のみんなの問題でしょうが、、、

イローム:君が一人で水道会社に文句言いに行っても、ダメなんだよ。

サザンカ:じゃ、どうすればいい? みんな困ってるのよ。誰もそのこと言わないの?

 

イローム: そんなに簡単なことじゃないんだ。僕は、以前、水道会社(ソデシ)の地方支店に苦情を申し立てに行ったことがある。ソデシの制服まとってネクタイ締めて 先のピンと反り返った黒靴すがたの職員が出てきた。僕はこう切り出した。

『あなたの役目が難しいことはわかっている。なぜって、あなたの会社は悪い会社で、悪い会社を弁護しなくてはならないんだから。』と持ちかけた。彼はすぐさま

『いいえ、私の会社は良い会社です。』ときた。

『いいですか、あなたは会社の組織の中で、何の力も持たない小さな置き石でしかない。会社に使われてる置き石に過ぎない。だのに、あなたが作った自分のもののように、会社の肩を持とうとする。盲目的に会社をかばっているのですよ。』

自分と会社を一体化するなんて愚かなことだ。会社を攻撃すると自分が攻撃された、自分の部族が攻撃された、はたや自分の家族が攻撃された、、と感じるのさ。これは一つの例だけれど、この愚かさがこの社会にとっては深刻なネックになってる。

もうこの「わけわからず」と議論続けるのはムダと諦めた。

サザンカ: じゃあ、ソデシの本社に行けば?

イローム: 、、ふむふむ、、誰に会いに行く? トップのボスか? 会えないよ。ガードマンが尋問するよ。『ご用件は?』 『断水の苦情を、、』『消費者サービス担当へ行ってください』

サービス窓口で、担当者は『請求書を支払ってください。』それだけさ。

サザンカ: 言いたいのは、支払いはちゃんとしてるのに「断水ばかり、どうしてですか?」なのよ。

イローム: 「ご迷惑おかけしていますが、どこそこで故障が起き、今修理中です。」おきまりのセリフだ。

サザンカ: わざと水を供給しないようにしてるの?

イローム: おい、おい、君はケンカ売りたいのかい、、

 

 

サザンカ: 断水の問題、ここ数年こんな状態らしいよ。この地域は雨の多いところとして有名なのに。テクノロジーの老朽化? システムが古い? やる気のない職員のボイッコット?      なんにしても、会社の責任だと思う。

イローム: 会社会社と君は言うけど、会社とは何なのか、ちょっと考えてみよう。

会社ソデシは、魂の備わった人間ではない。巨大な組織なのだよ。いくつもの小さな部所から成り立っている。ミスターなになには、この部所のデイレクター、ミセスなになには、あの部所のデイレクター、わけのわからない、どこそこの部所のなんとか氏もデイレクター、ってな具合。しかし、無数のデイレクター達それぞれに力はない。デイレクターは現場のテクニシャンに指図を下す。するとテクニシャンは答える、「この作業にはNo8の鍵が必要です。No8の鍵がありません。私の作業箱にこの鍵が入ったらすぐさま仕事にかかります。」

これが、巨大な企業の姿なんだ。

皆、愚か者なんだ。もちろん僕も含めてね。この社会はこういうシステムになってる。それに刃向かおうとすれば、皆が敵になる。」

(この場に居合わせた知り合いのAさん)

Aさん: そうです、そうなんです。イロームさんの言った通り。みんな声を上げるの怖いんです。

イローム: こんな状態では、先頭に立って行動する前に、よーく考えなくては。目的は何か、何を得たいのか、そして、行き着くところを見定めた上で始める。火をつけて、途中で逃げてしまうのではダメだね。。僕たちは何を得たいんだろうか、、。

サザンカ: だから言ってるでしょ、断水のない毎日に。

イローム: それはみんなの共通の願いだ。でも君にそれを実現する力がないように、ソデシのデイレクターからガードマン、村の村長、副知事、上から下まで、誰にも力はない。そこで、せめて僕らにできることは、世間の注意をこの問題に向けさせること。プレッシャーをかけること。直接の責任はソデシなんだけど、何も解決しないでいる。これにプレッシャーかけて、大きなプレッシャーかけて、怖がらせる。そうなれば、ソデシは震え上がって、これは何とかしないといけない、、と重い腰を上げ、真面目に早期解決策を探すことになる(かもしれない)だろう。

サザンカ: それがいいかもね、でもよく分からない。あなたが言うような、大きなレベルの動員とかは、どうしたらいいの。

イローム:君は軽く考えてるよ。個人的なレベルで済ませるだけなら、何の意味がある。問題の解決にはならないよ。

Aさん: サザンカさん、お言葉ですけど、僕の考えは、つまり、水がないのは困る。だからどうすればいいかを思うのです。水を買いに行くか、井戸から汲み上げるか、あした水が出るのを待つのか。

イローム:(サザンカに)わかるだろう、つまるところ、君一人が胸を叩いて膨らませて、ソデシに掛け合いに行っても、周りの皆を敵に回すことになるのだってこと。村人たちは『なんだ、この人は僕らをバカにしてるのか、僕らは愚か者で何も考えてないと思ってるのか、、、』とね。

サザンカ:わたし胸なんか叩くつもりないんだけど。

Aさん: そうなんです、みんな水がなくて困ってるんです、でも何も言わないでいます。そこにあなたのような人が出てきて、声をあげたらですよ、皆はあの人はなにかを差し出しに行くのか、、と疑うのです。

イローム: ははん、サザンカは、いけにえの羊になるわけか?Le Bouc Emissaire (いけにえ)のことだな、、。

サザンカ: 、、、えっ??、、、ブックエミセール?

イローム: そうだ。そうしようか?(笑)

Aさん: イロームさん、わたし、そのはなし、知ってますよ。はなしましょう。

バウレ族の人々がガーナを追われ、逃亡の末、コモエ河までたどり着いた。背後には、ガーナからアシャンテイ族が迫っている。追いつかれたら殺される。いけにえを出そうと皆で決めた。一人の女が自分の子供を差し出し、水中に投げた。すると橋が現れ、人々は橋を渡って、向こう岸(今のコートジボアールの地)に逃げた。

この人々の言葉で「子供は死んだ」は「バウレ」というのです。

イローム:コミュニティ内で誰にも解決できない大きな問題があると、いけにえをする。これをしたあと物事がうまくいく。

さて、君は いけにえになる用意はあるのかい?

サザンカ:うーん、ちょっとそれは、、。

 

真昼の熱気42度  

 

こんなおしゃべりしてる場合じゃないよ。今日は42度まで上がってるわ。。シャワー思い切り浴びたいのに、、。ソデシはもう消えてしまえ! 井戸を掘りましょうよ。

 

 

ヤカセメ村は、それでもまだまだ恵まれている。余裕があって、まあ、そのうちなんとかなる。井戸も時間が経てば水が湧いてくる。雨の多い土地柄、ひと雨降れば、軒先に置いたドラム缶は雨水でいっぱいになる。

降雨量が少なく水不足がもっと深刻な北の地方の、数年前に訪れたある村では、井戸が完全に枯れてしまっていた。その村では当時、水道も電気もなかった。(現在は電気が来ているらしいけれど)

サザンカはそれを思うと、もっと過酷な自然条件に耐えている人たちに頭がさがる思いがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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